Muロケットよ、永遠なれ!

Mロケットの過去、現在、そして未来

〜Mロケット栄光の軌跡と現状、そして「次期固体ロケット」へ〜

画像:現在欧州で開発中の「Vega」 Mロケットは間違いなく世界最高の固体ロケットであり、 その技術、実績は国内よりも寧ろ海外で高く評価されて居ます。 殊にM-Vロケットが与えた衝撃は大きかった様で、 現在欧州がイタリア(嘗て赤道直下の海上発射施設「サン・マルコ」で米空軍の「Scout」ロケットを運用していました)主導で「Vega」ロケットを、 また米国に於いては退役した「Peacekeeper」ICBM(これは技術的な共通点が多い故、 海外のドキュメント等では何かとM-Vロケットの引き合いに出されます)をベースに「MinotaurIV」ロケットを開発しているのは、 その何よりの証拠であると謂えるでしょう。

Mロケットは1955年に初号機が発射(「打ち上げ」では無いので念の為)された、 糸川英夫東大教授(当時)の「ペンシル」ロケットをそのルーツに持ちます。 宇宙科学のみならず、我が国の宇宙開発の歴史は正にMロケットと供に在りました。 事業団のロケット計画がQロケット→旧Nロケットから米国の技術供与によるソー/デルタロケットベースのN-Iロケットに変更された年('70)には東大宇航研は既に衛星を打ち上げて居ましたし、 次の年('71)には早くもM-4S-2による最初の衛星が軌道に乗せられました(1号機は失敗)。 のみならずN-Iロケットの第2段エンジンもMロケットが在ったればこそ、 その第1段を利用して予め飛行試験を行えたのです(ETVロケット)。

画像:NASDAのETV-1ロケット 日本のX線天文学を一挙に世界のトップレベルに押し上げたX線天文衛星「はくちょう」、 世界で初めてオーロラの紫外線撮影に成功したオーロラ観測衛星「きょっこう」、 史上初めて固体ロケットにより惑星軌道に投入されたハレー彗星探査機「さきがけ」「すいせい」、 世界で初めて太陽活動1周期の観測を達成したX線太陽観測衛星「ようこう」、 世界初の地球大気によるエアロ・ブレーキ実験に成功し、 我が国に「米ソに続き3番目に月面へ人工物を到達させた国」と謂う栄誉をもたらした工学試験探査機「ひてん・はごろも」、 スペースVLBIを世界最初に実現し、運用チームにIAAチーム栄誉賞をもたらした電波天文衛星「はるか」 …そして工学試験機ながら、数多の驚くべき成果を上げ満身創痍ながらも奮闘を続ける「はやぶさ」…。 若し日本にMロケット無かりせば…果たして我が国の宇宙開発は今頃如何なっていた事でしょう?

去る平成18年7月26日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)より 「今後のM-Vロケット等について」 と題するプレスリリースが発表されました。 何やら細々と書かれて居ますが、要約すれば「M-Vはコスト高だから廃止! これからは小型衛星は新しく開発する低コストの小型固体ロケットで、 それより大きいのはGXとH-IIAで打ち上げるんだからね!」という事らしいです。

予てより噂の絶えなかったMロケットの廃止… それが遂に現実の物となって仕舞いました。 旧科学技術庁による「宇宙開発推進本部」設立以来、 40有余年に亙る筑波vs駒場・相模原(と言うよりは霞ヶ関内の、でしょうが)の因縁の対決は、 結局筑波に軍配が上がったと云う事なのでしょうか。 今となってみれば、「敵」に付け入る隙を与えぬ様もっと早く先手を打つべきだったのかも知れません。 結果論ではありますが、全ては遅きに失した感もあります…と言って絶望的な迄に予算の少ない宇宙研に一体何が出来たでしょう? 現状で何の問題も無く仕事をこなすロケットの改良に予算を使う位なら、 1機でも多くの衛星を上げて観測を行ないたいと思うのも仕方の無い事です。 尤も、個人的には衛星をロケットに合わせて作らせるのでは無く、 衛星に合わせたカスタムメイドのロケットであると云う、 その比類無き独自性もMロケットの大きな魅力であると感じていたので、 仮にMロケットが「量産型」の工業製品に変身して居たとしたら、 それはそれで何だか寂しい様な、複雑な気分になっていたかも知れませんが…。

画像:J-Iロケット ただ、兎に角先ず「M-V廃止ありき」で話が進められた今回の措置は矢張り「理不尽」としか言い様が有りませし、 リリースの「平成22年度に計画している金星探査衛星(PLANET-C)の打上げにM-Vロケットを利用する場合には、4年間の設備等の維持費を含めて相当の費用が見込まれ、H-IIAロケットで打ち上げる場合と同程度であること…」 云々のくだりに到っては詭弁としか思えません。 果たして「彼ら」の言動は我が国の宇宙開発をより良い物にしよう、より一層発展させよう、等と云う思いに由来する物なのでしょうか? 最早「GXロケット」には全く期待しては居りませんが、 何より万が一にも「次期固体ロケット」迄もがコケる様な事態となれば、我が国の宇宙科学(殊に惑星探査)は死に絶えてしまうのでは無いか?と考えるだに不安は募るばかりです。

ところで、その「次期固体ロケット」については、 M-Vプロジェクトマネージャーであり、且つ「次期固体ロケット」のPMでもある宇宙研の森田泰弘教授が色々な所で語って居られますが、 それらの記事に拠ると、「次期固体ロケット」開発の主眼は 「打ち上げに係る手順の簡素化」、「運用性の向上」と云った所にある(少なくとも森田先生は其処に置いて居られる)様です。 そして、その技術の実証を始めるに当たっては、H-IIAは勿論M-Vの規模でも大き過ぎるのであって、 先ず小型ロケットによる開発から行なうべきである、と述べて居られます。

また、元来が補助ロケットであるSRB-Aは幾つかの点でロケットの第1段には不向きであり、 かなり大掛かりな改修が必要である(そしてSRB改造案はあくまで候補の一つである、とも)、との見方もされていて、 兎に角目に付く資料を読めば読む程SRB-Aを第1段として流用する、 所謂「筑波案」の正当性は弱くなって行く様な気がしてならないのです… その様な開発目的にM-VLite(M-Vの第2段、3段、及びキックモータで3段式ロケットを構成した物)+M-VA(コストダウン改良を施したM-V発展―量産?―型)こそがピッタリではないのか、と。 少なくとも大型ロケット用補助ロケットを流用する事で「低コスト」「開発期間の短縮」が実現出来る、 という理論は既にJ-Iロケットにより成り立た無い事が証明されたのではないか…まぁ、ここから先は私如きシロウトの門外漢の出る幕では無いでしょう。 最終的にはその道のエクスパートの皆様が、適切な判断を下されると信じて居ます。 思えば我が国の宇宙開発は、当初から逆風吹き荒れる中幾多の困難を乗り越えて来たのですから。